寿楽荘、曰く憑きにつき〈4〉

寿楽荘、曰く憑きにつき〈4〉
 夕暮れ時、柳田は一度、荷物を取りに自宅に戻っていた。  あんな恐ろしい事があっては流石に一人で家には居られない。とは言え暫くホテル暮らしが出来る程の経済的余裕は柳田にはなかった。  そこで、柳田は溝口に暫く泊めてもらえないかと藁にも縋る思いで頭を下げたのだった。  気心の知れた仲とは言え、同僚にそんなお願いをするのは流石に気が引けたが、事情が事情だけに溝口も快くそれを受け入れてくれた。 「無事引っ越しが終わって問題がちゃんと解決したら、叙々苑の焼肉くらいは奢れよ〜?」  それも柳田が変に気を遣わないようにと言う溝口なりの配慮なのかも知れない。軽薄でいい加減な所もあるが、その実、情に熱く仲間想いな男なのである。出会ってからまだ一ヶ月程度の付き合いだと言うのに、それでもこうして手を差し伸べてフォローしてくれる溝口に柳田は感謝しても仕切れない思いで一杯だった。  取り敢えず一週間分の着替えを含め荷物を纏めていく。その時、ふと上階の事が気になり柳田は作業の手を止めて天井を仰ぎ見た。  あの後も佐和から色々な話しを聞かせてもらったが、二〇二号室の住人についてはこれと言った情報は得られなかった。まだ分からない事だらけではあるが、両隣りの住人については朧げながらも輪郭を掴めて来た気もする。けれど、二〇二号室の住人に関しては未だ多くの謎に包まれていた。  やたら小綺麗に清掃された玄関前。かと思えば生ゴミを溜め込んで悪臭に包まれた室内。そして毎週日曜日になると鳴らされる激しい地団駄。あの部屋に入る・・・とまでは言わないが、せめて中の様子を確認出来れば。或いはせめてあの部屋の住人に会う事が出来れば何か分かるのではないか?  そこで柳田は思い直した。そんな事は自分がやるべき事ではない———と。避けられるはずの問題に自ら首を突っ込んで行くなど馬鹿のやる事だ。そう思いながらも心の奥底に何か引っ掛かるような感覚が頭から離れない。自分が思っている以上にお酒が回っているのかも知れない。
華月雪兎-Yuto Hanatsuki-
華月雪兎-Yuto Hanatsuki-
皆様初めまして。華月雪兎です🐇 「雪」に「兎」と書いて「ゆと」と申します💡 現在は掌編、SS、短編から中編サイズの小説を書かせて頂いております。 恋愛系短編集 『恋愛模様』 ミステリ/ホラー系短編集 『怪奇蒐集録』 をエブリスタ、Noveleeにて不定期連載中📖🖊