歩くこと

 必死に、意味もなく、走っていた頃が私にもあったなと、すれ違った小学生を見て思い出していた。いつからだろうか、全力で走り回ることをしなくなったのは。中学生の頃はまだ走っていた気がする。高校生でもたまには。  そんなことを考えているうちに駅に着いた。まだ、週の半分も過ぎていないことに悲しみと虚しさを覚えた。  反対方面へ向かう電車を見て、もう会社のことなど忘れてこの電車に乗ってしまおうかと考えた。当然考えただけで行動には移さない。  定刻通りの電車、過密というほどではない車両に乗り、吊り革を掴んだ。窓から見えるビルを見て心が傷んだ。これも遥か昔であればバベルの塔として神の怒りを買ったに違いない。それが今では私の怒りを買っているという。神様から私にでは随分スケールダウンだなと可笑しく感じた。  私は神のようにバベルの塔に罪を与えることもできないし、仮に出来たとしてもしないだろう。仕事が本当になくなってしまっては困る。  くだらないことを考えているうちに憎き我らのバベルの塔に到着した。 「おはようございます」  私より早めに着いていた人たちに挨拶をした。少し遅くきている私ですら朝早いと感じるというのに、それより早い人々は実に素晴らしいことである。あの小学生たちも苦痛を感じていないのだろうか。 「おはよう。実はな、少し困ったことになってな。来て早々あれなんだが、ちょっといいか」  係長が困った顔をして私のことを呼んだ。その困り顔に悲しみが見えなかったため、私は大したトラブルではないだろうと感じていた。
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色々書いています。