何故か怒られた

何故か怒られた
 最近の私には、ひとつ悩みがある。  旦那が、ゲームにハマっているのである。BペックスだかCペックスだか知らないが、現実ならゴキブリの一匹もびびって殺せないような人が、ゲームの中ではしゃぎながら人を殺しているというのだからおかしな話だ。もっとも、ゲームをすること自体は別に悪いことじゃない。ただ、彼の場合はそれが長すぎるのである。仕事から帰って来るなりゲームを始め、そのまま夜中までやっていることもある。朝は早くに出ていっちゃうし・・・。要するに、寂しいというか虚しいというか・・・有り体に言えば、もっと構ってほしいのである。結婚してはや三年、そろそろ子供も欲しいところではあるし・・・。  とはいえ、ゲームが原因でそういう夫婦の会話も出来ないのである。かと言って、ゲームをしている時の楽しそうな彼の様子を見ていると、無闇に取り上げてしまうのもかわいそうだ。私は途方に暮れていた。  そんなある日、私は閃いた。  旦那と同じゲームをやってみるのはどうだろう。そうしたら、彼と共通の話題で盛り上がれるかも知れないし、やめて欲しい時に自然に終わらせることも出来るかもしれない。我ながら見事な思いつきだ。そんなことを考えながら、私は作戦を開始した。  次の日。旦那が仕事に行ったあと、家事をひと通り済ませ、私は彼のDペックス(?)を起動した。英語で書かれたよく分からない画面がいくつか切り替わり、タイトル画面が表示される。これも同じくよく分からないので、適当に「決定」を連打していると、画面が暗転し、ゲームが始まった。  そこは草原のようなステージだった。さて、まず何をすればいいのか。とりあえず、ステージの中を探検してみよう。そう思い、コントローラーを操作する。自分でやってみて初めて、ステージがとんでもなく広いことに気がついた。どこまで続くんだろう。気になった私は、ステージの端っこを目指す。風が吹いているのか、草がゆらゆらと揺れている。綺麗だなーなんて思っていた。しかし突然画面が赤くなり、「死亡」と表示された。「あれ?なんで死んだの?」訳が分からなくなる。そのままボタンを連打すると、また新たなゲームが始まった。  今度は街の中だった。細かいところまで作り込まれていることに驚く。デパートの中に入り、中を見回していると、人がいることに気づいた。店員さんかな、と思った瞬間、銃を取り出しこちらに撃ってくる。慌てて逃げようとしたが、また死んでしまった。なんて事をするんだ。何もしてない人を殺すなんて、と私は憤った。というか今のところ、何をすればいいのかまったく分かっていない。  次のステージはどうやら港のようだった。誰かについて行くことにしよう。そう思いしばらく進んでいると、可愛らしいクマのお面を被った人がいた。私はその人の後ろについていった。その愛くるしい姿からは想像できないほどクマさんは機敏に動き、次々と敵を倒していった。私もそれに倣い、たどたどしい動きで銃を撃っていった。しかし、一発も当てることができず、もどかしい気持ちになる。それでも、クマさんはgoodのスタンプを押して、私を励ましているようだった。しかしその時、あることに気づく。味方チームの表示が、残り一人になっていたのだ。クマさんもほぼ同時に気付いたようだった。くるりと反転し、こちらに向かって銃を撃ち、ゲーム終了となった。「敵だったんかい!」思わずツッコミを入れる。とはいえ、動き方はなんとなく分かった気がする。旦那が帰って来るまで練習して、驚かせてやる!そう意気込んで、もう一度ボタンを押す。左上にあるトロフィーのようなものが、少しずつ減っているように見えたが、すぐにゲームが始まったので、気に留めることはなかった。  2時間後、旦那が帰って来た。私は得意げに、練習の成果を披露するため、彼をリビングに呼んだ・・・
こころ虎
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