残された者の話
岡崎は軽トラックに轢かれてこの世を去った。
気の弱い岡崎は会社でいいように使われ、毎日のように残業を強いられ、ついには家から出ることもできないほどに衰弱していった。
俺は、親友が疲れていたことも、心に異常をきたしていたことも知っていた。なのに、頑張れという空っぽな励ましの言葉しかかけてやれなかった。
医者が言うには、軽トラックに轢かれた際にできた傷は大きなものではあったが、死に至る様なものではなかったらしい。岡崎の心は、死にたいと、そう身体に訴えかけたのかもしれない。
岡崎は生前、異世界に転生したいと言っていた。漫画好きの岡崎は会う度に異世界転生作品について語っていた。もしかしたら岡崎は、異世界に転生できたのかもしれない。そう願うことで、自責の念から逃げようとしているのかもれない。
形見分けで、岡崎の母親から一冊のノートを受け取った。ノートの表紙には『異世界転生』と書かれていた。中身はよくあるファンタジーのような内容で、終盤にかけて文字が乱雑になっていく。この世界から逃げだしたい。そんな岡崎の想いが反映されているようで、俺は涙が出た。
墓参りには欠かさず行った。贖罪という訳ではないが、行かないといけないという想いはあった。
「岡崎。お前は異世界で英雄になっているのか? 可愛い女性に囲まれて幸せな日々を送っているのか? ……神様、どうかそうであってください」
岡崎が死んで四年の月日が流れた。俺は相変わらず、安月給のサラリーマンで、気の置けない友人もひとりもおらず、ただ流れる時間を空虚に生きていた。
岡崎程とは言わないが、俺も会社に使われ、業務に追われ、上司に怒鳴られる。そんな日々を繰り返していた。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2023/9/26 4:19
いとう一茶
お茶が好きです。コーラも好きです。