風
電車の窓が少しだけ開いていて、そこから春の風が吹き込んできた。
僕はただ座って、何も考えずにその風を受けていた。目は閉じてもよかったし、開いたままでもよかった。景色はさほど意味を持たなかった。流れていくだけだったし、僕が追いかけるものでもなかったから。
風は思ったよりも冷たくて、だけどそれが心地よかった。
耳のあたりでそっと音を立て、襟元に入り込んで、少しだけ肌を撫でた。
誰かが優しく触れてくれるみたいだった。何も言わずに、ただ「ここにいるよ」って知らせてくれるような。
電車は単調なリズムでガタンゴトンと進む。向かいの人が眠っていて、その隣の人はスマホをいじっている。僕はどちらでもなくて、風を感じている。なんだか少し特別なことをしているような気がして、それで十分だった。
この風はどこから来て、どこへ向かうのだろう。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/4/22 9:04
あや
短編多めです!気軽に読んでみてください
フォロー嬉しいですけど、こちらからはあんまりフォローしないと思います