薔薇は…

薔薇は…
 「昨日、薔薇を見たよ」  偵察任務の最中、戦友が呟いた。  「バカ言え。こんな戦場にか?」  俺が茶化して応じると、戦友は黙って前方を顎で示した。    遠くに砂漠の街が見える。テロリストが潜伏する街。間もなく空爆される予定の街。今まさに、その街の門から何か小さなものが走り出たところだった。  スコープを覗いて確認すると、それは一人のみすぼらしい少年だった。  少年は、いつ撃たれるかも知れない状況の中を、家族のための水桶を抱えて、懸命に走っていた。  気高く、真っ直ぐに、自分の誇りにかけて。
泥からす
泥からす
短くて、変な小説を書きます。ノンジャンルです。