10回目

10回目
 もう一回好きにさせるから  そう言ったものはいいもの、その病気の治し方なんて医者ですらわからないのだ。素人の私が治療法なんて知るはずがない。病室の彼は、酷く私のことをジロッと睨んで見ていた。彼が私に対してそんな目を送るだなんてたったの一度もなかった。だけど、その目にはやはりこれからの不安が入り混じっていた。 「できるわけないだろ、俺はもう愛華のことが好きじゃないんだから。」 彼から放たれた言葉は銃弾の鉛のように重く私の心を打ち抜いた。それはひどく痛くて涙が出るようだった。そのぶっきらぼうに言葉を放った後、彼は「寒いから出てけよ」と一言こぼし窓の外を見た。 「やり方なんて知らない。わかるはずがないでしょ。でも私は貴方のことが好きなんだから。しょうがないじゃない。」 私は、気づけば彼の元へ歩いていき、まっすぐ言葉を放つ。彼が好きな事に嘘偽りがないことは確かなのだ、これは確かな揺るぎ難い真実だった。私にできることといえば、彼に何度も振り向いてもらおうと努力し何億回も「好き」を伝えるしかないのだ。彼は私の方を向き直し、私の方を見る。もうあの愛おしそうに見てくれる視線は決して送ってはくれない。 「好きにすれば。」 それは、私にとってまた重たく響いた言葉だった。私が何をしても自分には関係ないと言っているようで。涙を堪えながら私はにっこりと笑う。こういう時は、ポジティブに捉える馬鹿にならなければならないのだ。 「ありがとう!じゃあ明日、お見舞い持ってまた来るね!」
田中
田中
心に残る小説を。