向こう側の女

                     ①  知らない人が僕の部屋で夕飯の支度をしている。昨日もここで寿司の出前を一緒に食った。一昨日は何か作っていたような気がする。  この「女」が僕の家に現れてから温かい飯が毎日欠かさず食卓に並ぶ。それにしてもこの「女」の記憶がまるでない。名前や年齢は当然、いつ僕と知り合ったのか、僕との関係はどういったものなのか、全く僕は知らない。             ②    「女」の存在を確認したのは、耳がもげてしまいそうな寒さが厳しい冬の日だった。ような気がする。酒に酔ったおぼつかない手つきでアパートの玄関を開けると「女」はリビングに座っていた。あたかもそれがありきたりな日常であるかのように。
ハヤト