IN SINGAPORE 3

IN SINGAPORE 3
 部屋の隅々を探しているのに居ない。見つけるのには流石の根津も骨折った。なんと塊になって瓦礫に紛れていたのだ。而も口も塞がっており意識もないらしく、相談の結果、サムエルが鞄に詰める羽目になった。 「不思議ですね。此の塊触るとあったかいし、心臓の拍動が伝わるんですよ。持ってみますか」  掴んだ肉塊を向ける。博戸は眉を寄せて口角を下げた。 「私は遠慮しておくよ」 「俺も。あ、待て。お前ら近寄るんじゃねぇぞぉ? 薄汚え体してんだからな」根津が厭そうに数歩下がる。脆い床がぎしぎしと音を立てた。忽ち天井から細かい石や砂が落ちて来て被る。脊髄反射で眼を瞑ったが、砕かれた破片が入ったらしくジリジリと痛み悶えた。サムエルは掌からペットボトルを出して根津の眼に注ぐ。 「鼠とかいう衛生害獣の象徴が私のような鳥や猫を不潔呼ばわりするのは前代未聞ですよ。ほら博戸さんなんて……血まみれですね」  布で下半身を隠しても傷だらけの上半身は露出したまま仁王立ちしている。朱殷に濡れる肌は糊みたいに乾いている。革を鞣したような筋肉も打撲に黒ずんで膨らみ、凸凹している。 「はあ、全身が痛いねえ。猫の姿だったら最悪だった」 「猫かあ。何で人の真似してんだ?」根津が興味深そうに眼を向けた。汚れないようにと外套を脱いで畳み裾を持ちつつ砂埃を払いながらである。博戸は激痛に朦朧としながら笑った。 「さあ……特別な理由はないけどねえ。人になりたくて願って、一番身近で見てきた主人に似たのさ。似せるものが彼しか居なかったし、彼になりたいと思っていたのかもしれないね」
愛染明王
愛染明王
身の廻りに住んでいる動物達の一日を書き留めている。好きなものは菌類を含めた生物全般、そして女性。作品を此処に書き留めては読み返し、日々修正を重ねている。