ズボンの中の来訪者
朝、通勤で満員電車に乗っていた。満員電車ではあるけれども、車両の端っこの連結部の扉に寄りかかりつつ優先席の前に立っていた。スマホに有線のイヤホンを繋ぎ、ラジオを聴きながら、漫画を読むか、小説を読むか、ナンプレをしているかが大体の日課なのだけども、その日は確かkindleで小説を読んでいた様な…。
「ループ」というタイトルの「リング」「らせん」の続編。「リング」も「らせん」も原作は読んでいなく映画を数十年前に見た程度の記憶。100ページくらい読んだところで全然貞子が出てくる気配がなく、がん細胞と世界の長寿村と重力値みたいな話が延々と続いている。面白くなるのだろうか?と思いつつ、勃起した親父ががまん汁をシンクに付けてそれを主人公である息子が掬い取って顕微鏡で観察し、「これが僕の産まれたルーツなのか?」みたいなくだりに笑いそうになる。貞子の映画を観た時より狂気を感じてしまった。
ところで、電車に乗ってしばらくしてから、私の股間から数センチほど下の内股がなにやらチクチクする感じがあり、ズボンの上から触ってみると何かが蠢いていた。「ひっ」と声が出て、どうやら何かの虫がズボンの中にいる事に気が付いた。とりあえずズボンをばたつかせ、下に落ちて裾から出ていっただろうと、「ループ」の続きに戻ろうとしばらく読み進めていると、今度はモモの内側でなく外側がチクチクする。「うわぁぁぁぁ」と叫びたくなるくらい気持ち悪かった。
もう一度ズボンの布の上からその辺りをまさぐると、何か固いものに触れた。その固いものを握りしめ、ズボンの中で必死に下の方へちょっとずつ、ずらそうと苦心するも、私は有線のイヤホンを付けながら、リュックサックを前に抱えていて、ズボンの外側をつまんで握りしめながら下半身をくねくねさせつつリュックがずり落ちかけ、有線のイヤホンの有線が絡まったりしていた。
その虫をズボンの下の方へ移動させて、ズボンの裾から出したいのだけども、目の前に座っているおじさんがさっきからどうも怪しげに私を見ている。隣に立っている人もゴミを見るような眼で私を見つめていた。
いつの間にか虫を取る事に夢中になってるうちに不審者になっていたようだ。「違うんだってば、得体のしれない虫がズボンを蠢いているんだって!」と訴えたかったけど、その勇気は出なかった。
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カテゴリー: ホラー
投稿日時: 2025/9/30 9:20
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
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