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 ホテルをチェックアウトして、ユウヤとミレイは外に出た。行こう、とミレイがユウヤの手を引く。朝特有の冷たく薄い霧靄の晴れ切らないぼやけた空気が二人の顔や手足や身体を包み込む。空は雲ひとつなく晴れており、出掛けるのにはうってつけの天気だった。祭りって十時からだっけ?とユウヤが聞きミレイは頷く。間に合うかな、とユウヤは言うとそんなに慌てなくたっていいよ。ゆっくり行こ、とミレイが歩きながら彼を振り向く。  祭り会場のある夕峰山は、ホテル街を抜けた先の大通りを右に曲がり、道なりに進んで行ったところに聳えている。Y代駅からでいうところの、北東の方角に位置している。ホテルを曲がると、手摺りの立った小さな階段に、一人の人影があるのを見つけた。それは長い髪の毛をし、ボロ切れの雑巾のような服を着て顔を腕に埋めさせて不恰好に横たわっておそらく眠っている中年過ぎの男だった。風貌から察するに、ホームレスだろうとユウヤはみた。階段の広いスペースに、ベッドや家壁代わりの段ボールが設けられていて、その付近には無造作に散らばった飲みかけのペットボトルや酒瓶、表紙の取れた本などが置かれていた。男は犬のような寝息を立てている。 「ねえ、あの人って家がないのかな」 「そうみたいだね」  ミレイは男について、特に気に掛けたそうな感じでもなく、単純に不思議がって一つの物事として捉えたようにユウヤに尋ねた。ああい人って、なんで住む所とか誰にも相談したりしないんだろ? 「それは、きっと色々あるんだよ」  そう、とユウヤは間も無く開店準備を始める軒並の飲食店達を見やりながら言う。 「色々って?」 「まあ、一口には言えないけど、例えばさ、ある事件を起こして、それはつまり殺人だったり強盗だったり、身や顔を隠して逃げなきゃいけなくなって、その人は誰も通らなそうな場所に寝泊まりするようになるっていうのを、どっかで聞いたことがあるんだ。全てがそうじゃないけど、時効で罪を免れようとしたい人とかさ」 「でも、なんでそんな辛い生き方するの?だって、捕まった方がちゃんとした部屋に入って暮らせるし、食べ物だって食べられるじゃん」
アベノケイスケ
アベノケイスケ
小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)