白雪姫のファーストキス
朝日が差し込み目が覚める。カーテンを捲ると青々とした空が広がっており、なんだか心も晴れやかだったから、死ぬなら今日だと思った。
「白雪姫はいいなあ。キスをされたら、目が覚めるんだから」
誰の言葉だっただろう。なぜ思い出したかもわからないまま、布団から這いずりでて、洗面所へ向かう。
朝の準備を済ませると、いつもより濃くメイクをした。普段は会社勤めなので薄くしているが、私はこれくらいばっちりとアイラインを引いた顔が好みなのだ。服は色々と迷った末、こんな時だからこそと翡翠色のワンピースを選んだ。ショーウィンドウに飾られている姿に一目惚れして買ったものの、なんだか恥ずかしくて一度も袖を通していなかったのだ。
「いいさ、今日は私、お姫様だから」
スマートフォンと財布を持ったことを確認し、家を出た。思ったより強い日差しにくらっとする。日焼け止めを塗り忘れたことに気付いたが、私は今から死ぬのだ。この際肌なんていくらでも焼いてやるさ。
駐車場に停められたオレンジ色の軽自動車。私の愛車。私はこの車に一目惚れをしたのだ。全体的にまるっこい愛らしいデザインに、中は思いのほかひろびろとしていて快適だ。なんと言っても色が良い。この半年はこの車のローンを返すために働いたといっても過言ではない。それくらい思い入れの深い物なのだ。
スマホに上司から何度も電話がかかっている。
「出てやるもんか。パワハラ野郎め」
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カテゴリー: ミステリー
投稿日時: 2025/3/29 14:36
最終編集日時: 2025/3/29 14:42
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
雁木ひとみ
全てフィクションです