甘酒ゼリー

甘酒ゼリー
 私の目は軈て涙に霞む。 杯を手にとり酒の匂いが雨の湿気を伝って鼻に触れると、それは陶酔を施すような甘美な香りで、妻の輪郭が徐々に溶けてゆく。 私の口角はあがる。目じりにシワがつく。 鎖が片足ずつ外れ、空を舞う自由な鳥になると脳は言う。 しかしまたもや私は堕ちた。 それは、私をあちらの世界へと運んではくれないのだ。心の盃はひび割れて、幸福が漏れていく。そして再び悲しみに打ちひしがれた。  私の足は軈て泥中に竦む。 ゼラチンを匙で掬い取って口に運ばせると、それは脳を刺激するような酸味が続いて、唾液にジワリと溶けてゆく。 目が覚める。心臓が鳴く。
タフィー_1006
タフィー_1006
短編、物語の一欠片を書いています