青豹帰還
十九歳の頃、エヴァンとディアーノは共に小さな家で暮らしていた。富豪の貯金で本棚や標本箱を買い占めて、日々を椅子の上で過ごす日々。背からは潮の打ちつける音と、びゅうびゅう風が吹きつける音がする。そこは静謐とはかけ離れた、雑音のある部屋だった。ディアーノが装飾したいと名乗り出てゴッホの絵画を掛けたからか、共同で生活する部屋は西欧美術館のようになっている。彼らがいつものようにその絵画の前で寝て本を読んでいると、外から新聞が投げられた。彼らは呆れてそれを取りに行くと、開いて驚く。
「ボニファーツ・コリネリウス総帥『もう直ぐに終戦するだろう』戦争が始まり二週間」
その見出しに気を取られた。その瞬間だけは、部屋がシンと静まって音ひとつ聴こえなかったと思う。英字をつらつらと読み進めて、また、汗を滲ませ一文目から見た。青豹、南欧諸国の島々の領土を獲得す。南欧王子に承諾印を押させる。彼ら戦争は終結したのだと述べて、応援してくださった国民の皆様に感謝申し上げると深々頭を下げけり。
ディアーノは薄暗い艶の立つ頭を鰭手で押さえて嘆いた。その紙上に印刷されているボニファーツは昔の矮小なる背丈と変わり果てた容姿で、元々淡青だった毛はもっと青く、それも瑠璃のように染まりきっている。また、小さく見えていた骨格は毛皮の下からも窺えるほどの強靭さがある。軍服の皺からでも解る張った筋肉。彼はその姿を見て、やや怯えていた。
「彼奴、いつの間にか軍の頂上や。……心配やな、国の末路が。奴の掌の上で転がされるのも時間の問題やろ」
ディアーノの述懐がエヴァンの耳に入って抜けていった。彼はぼんやりと、朦朧とするような心持でそこに立ち、ただ文面に気を取られている。その双眸の奥には希望の灯にも似た闇が溶けている。瞳孔はどんどん細まった。終戦したら彼に会えるかもしれない、という気持もそこにあった。
「此の国もお終いだなあ」
随分考えて、そう言った。ディアーノはそんな彼を見てくすくす笑った。もう疾うの昔から終焉が近づいているのだから、別に今終わっても不思議じゃなかろうといった模様だ。
「まあ、俺らは家から溢れるような貯金があるから何が起きてもどうにかなるで。それより、朝食や、朝食!」彼は切り替えた。
机に置かれた硬い外皮のパンに刃を差し込むと、すうと下げて分厚く切り分ける。すると気泡だらけの断面が現れて、深い小麦の香りが漂ってきた。鉄板上に黄金の阿列布《オリーブ》油を垂らしてパン一枚一枚を乗せると、焦がすように焼く。両面を焼くと、聖書の絵画の描かれた皿にそれを乗せた。後、昆虫肉の薄切りを残った油で揚げ焼きにして、パンに乗せる。仕上げに目玉焼きを乗せて胡椒を掛ければ満足な朝食が出来上がる。咥えたままエヴァンの元にそれを運んで、バリバリと音を立てて食べた。油の風味と焼かれた小麦の香ばしさが口全体に広がった。そこに肉の揚げ焼きが軽く肉肉しくて美味い。少し荒い胡椒と卵の相性も抜群だ。そうやって絶品を味わっていると、呼び鈴が鳴らされた。誰だろうか、とディアーノが壁に張りつき覗いてみると青豹が外套を着て突っ立っている。彼も後ろから追って来てみたが、絶句して声も出ないらしい。ただ眼を剥いて口を開けている。
1
閲覧数: 19
文字数: 5212
カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2026/7/5 16:21
愛染明王
最近、知識的な要求を満たされたり分かり合えたら喜びが最高値を超えて性欲に直結するのだと気づいた。創作もその一種だと判断した。ゆえに俺が変態化すると創作も細かくなるのでは?という仮説が立てられる。皿うどんが毎日食べたいからいつでもどこでも吸入できる皿うどん作ってほしい