路地にて
都心の路地裏で、汚らしい騒ぎ声がする。金属音や鈍い叫び、呻き声が混じっている。大通りまでは聞こえず、けれど確かに助けを求める声がその中にあった。
ネズミの出入りが盛んな通りに、閑散としたレストランが佇んでいる。その裏手にあるゴミ捨て場に一人の男が横たわっている。男は全身が見窄らしく、靴や服は破れ、その瞳は虚空を見つめていた。
カンカンカン、と金属音が路地裏に響く。レストランの裏口から、一人のシェフがフライ返しでフライパンを叩いている。シェフはわざとらしく音を立てながらガムを噛んでおり、ゴミ捨て場を一瞬眺めるが、すぐに逸らしてしまう。
シェフは足元に転がっているりんごの芯を、何度か垂直に蹴り上げる。シェフが蹴り損ねたりんごの芯はそのまま水平に飛び、男へと当たる。シェフは依然としてフライパンを鳴らす。
「俺の可愛子ちゃんたちよ。出ておいで」
シェフはガムを吐き捨て、どこか遠くを眺めながら大声でそう言った。シェフは銀の平皿に積まれたドッグフードを足で路地裏に配置する。
男はその見窄らしい身体を震わせながら懸命に起こすと、平皿の上のドッグフード目掛けて飛びついた。目には赤く血が走り、歯を剥き出し、よだれを垂らしている。まるでシェフが見えていないかのように、周囲を憚ることもなく、ドッグフードを食べている。
シェフは、皿の外まで飛び散らしながら食べている男を眉ひとつ動かさずに見つめている。そして、逸らすこともしない。
そこへ野生的な唸り声が路地裏を支配する。数匹の野犬たちが喉を震わせシェフと男を凝視する。シェフは野犬に気がつくと男から視線を外し、裏口の扉を閉めてレストランへと戻っていく。
皿と顔がくっつくほど近くまで寄っている男は野犬に気が付かない。四つ這いで皿へ向かう男へ、男と似たように充血した目の野犬が飛びかかる。
0
閲覧数: 36
文字数: 2754
カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/11/26 7:25
最終編集日時: 2025/11/26 7:49
K
色々書いています。