飯盛女その後
まだ、日が昇ってからわずかという時間帯にある二人組が峠を越えようとしていた。男女の二人組は、長く苦しい峠越えの道中とは思えぬ、今しがた上がったばかりの朝日と同じぐらいの明るい顔つきで会話をしていた。
男は屈強な体つきをしていたが、その男が放つ雰囲気は強く、決して恐れを感じるものではなかった。むしろその逆、優しく包み込むような温かさ、それをその男からは感じることができた。
一方で女は、如何にもという艶めかしさを持ち合わせていた。しかし、それでいてどこか勝気な様子も伺えた。弱々しく、男にただ靡くばかりというわけではないようである。
知らぬ人がみれば、旅の道中で遊女に惚れ込んだ男が銭を積んだ、と捉えられることだろう。この男女、男の気まぐれという点は遊女を買う男と相違ないが、愛ゆえの旅道中であった。
都を目指すも心中に感じる黒い何かによって滅入ってしまった男と飯盛として男に奉仕するも立て続けに無碍にされてきた女という組み合わせの男女であると誰が見抜けるのか。
出会ってわずかの期間ではあるが、愛を育みながら、宿から宿へと、都に向かって旅をしちょうど十日となる頃であろうか。
「やれ、おまえさん。その黒い何かってのは病気で、体調が悪いんでないですの」
女と出会ってから、男の体調は悪くなる一方であった。男はその屈強さゆえに気がついていないのか、はたまた気がついていないふりをしているのかは不明であった。
「俺は生まれてただの一度も医者にかかったことがないんだ。病ももちろんない」
同じ主張を重ねる男ももはや苦しい言い訳にしかみえない。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2024/12/18 10:00
K
色々書いています。