箸の持ち方
名も無きスラム街に生まれ、父親の顔は知らない。
いつもママはボーイフレンドをころころと変えて、夜は安い酒の匂いと怒鳴り声が混ざっていた。
家を追い出す代わりにくれた小遣いじゃ何も買えなくて、俺は古着の袖に腕を丸めて、震えた体を抱きしめながら眠った。
そんなある日、ゴミ山の向こう側で、彼女に出会った。
同じスラムの子で、同じくらいの年齢なのに、どこか落ち着いた目をしていた。
彼女は、捨てられた弁当箱を拾ってきて、少し洗っては、まるで宝物みたいに扱っていた。
「お腹、すいてるでしょ。」
そう言って、彼女は温もりの残るコロッケパンを半分に割ってくれた。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/11/19 4:14
最終編集日時: 2025/11/19 10:50
三秋 うらら