箸の持ち方

名も無きスラム街に生まれ、父親の顔は知らない。 いつもママはボーイフレンドをころころと変えて、夜は安い酒の匂いと怒鳴り声が混ざっていた。 家を追い出す代わりにくれた小遣いじゃ何も買えなくて、俺は古着の袖に腕を丸めて、震えた体を抱きしめながら眠った。 そんなある日、ゴミ山の向こう側で、彼女に出会った。 同じスラムの子で、同じくらいの年齢なのに、どこか落ち着いた目をしていた。 彼女は、捨てられた弁当箱を拾ってきて、少し洗っては、まるで宝物みたいに扱っていた。 「お腹、すいてるでしょ。」 そう言って、彼女は温もりの残るコロッケパンを半分に割ってくれた。
三秋 うらら
三秋 うらら