トナカイ牧場

 一つ一つは牧草を微かに揺らす鼻息でも、一斉に百と鳴れば壮観である。両端を同時に観測することが難しいほど広大な柵の中で、無数のトナカイが気ままに過ごしている。薄暗く透き通った空は少し青みがかっており、遥か北方にオーロラが見える。  柵の横には二階建ての小屋がある。柵に対してあまりにも小さな小屋は、柵の反対側へ行けば見えなくなってしまうだろう。屋根上の風見鶏がそよ風で小さく揺れている。  小屋の一階には柵側に繋がる大きなシャッターがひとつだけある。反対側には見たことのない機械と人一人分のドアがある。  機械とシャッターのちょうど真ん中の地点には暖炉があり、火の弾ける音が心地よい。そのすぐ傍にロッキングチェアと机がある。机の上にはワインボトルとグラスが置かれており、空のグラスにはワインがほんの少しだけ残っていた。  椅子の上ではふくよかな男性がうたた寝しており、呼吸に合わせてカーブした椅子の足が揺れる。不快感のないいびきが室内に響く。  凄まじい衝撃音が外から聞こえた。強烈な風がシャッターを打ちつけ、揺れるような轟音が鳴っている。男は飛び起きるように目覚め、シャッターを見つめている。数秒の後、風は弱まり、シャッターの音も静まった。外からはトナカイの鳴き声が聞こえる。  男は一呼吸ついてシャッターの横にあるボタンを押す。微かな機械音とともにシャッターが開き外の様子が少しずつ見えてくる。薄氷や雪煙が舞い上がり、視界はやや靄がかっていた。  男は二階で寝ているはずの犬を起こしに階段を上る。犬たちは全て目覚めており、鳴くこともせず窓から外を眺めている。男に気がついた犬は尻尾を振り回す。  犬を連れて外へ行き、小屋の外に置いてあった木製のソリを見る。ソリには目立った外傷はなくすぐにでも使えそうであった。  犬を全てソリに繋ぎ、音の鳴った方へ向かう。柄の異なる複数の犬は一直線に同じ方向へ向かい、ソリは勢いよく加速していった。何匹ものトナカイを追い抜き、時にはぶつかりそうになりながらソリは進む。
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色々書いています。