夜明の失恋

 目を覚ました頃、窓の外には薄明るい空が広がっていた。 私の部屋には時計が無く、したがって時間を確かめる術もなかった、が、まだ夜は明けていない気がした。そのときの私にはそれくらいがちょうどよかったのであろうし、実際そんなことはどうでもよかった。  私は頭の上まで腕を伸ばして、寝返りを打った。と、同時に、足の先に布の塊のようなものが触れ、湿り気のある繊維が親指に絡まった。私のまだ判然としない頭は、その感触を確かめてようやく気付いた。自分が布団の上で数々の人の合間を縫って、上手い具合の体制で寝転がっていたのだということを。そして、その、数々の人というのは、あらかじめ同級の人たちだと決まっているはずだった。何せ、同じ学級であるなら、みんな同じ布団の上で寝ているに違いなく、実際に、それさえ一つの共同体として存在していたのだから。   そんな状況に気付いたとき、私の頭には突然、一種の冷気のようなものが流れ込んできた。そのひやりとしたのは、私の胸を大げさに引き締めた。まるで、太陽が燦燦と降りしきる真昼間に吹いてくる、突然の秋風のようなものに、私の眠気はいくらか覚めて、その布の塊から足を引っ込めさせた。なぜかといえば、私が先ほどから足の先で触れていたのは、同級の中でも一番に関わりの遠いやつ、そして私が一方的に避けているやつだったのだ。依然として爪先には、あいつの体温と弾力が残っている。私には、それがある大事件の有力な証拠のように思われた。彼という人間は、私の嫌いな人格像にことごとく当てはまるような性質で、教室の中でもいちいち私の神経を逆立てていたのであった。だからもし、そんなやつを起こしてしまって迷惑をかけたとなれば、一大事ではないか、そういう消極的な気分が内から湧いてきて、私はつい咄嗟に足を折り曲げて元の姿勢に戻ると、そっぽを向いて目を瞑り直した。瞼を閉じると、すべて、深夜のような暗さに包みこまれた。確か、昨夜もこの姿勢で眠りに入っていたはずだった。よくよく考えてみれば当然だ。私たちは一枚の大きな布団にそれぞれ場所を与えられるべく、平等にそれを有していて、それぞれがなるべく心地よく寝られるように、あるいは迷惑をかけないがために、ちぢこまって寝ているのだ。しかし、今の私としてみれば、鈍いことにも伸びをしようとして、さらには贅沢に寝返りまで打って、もし今、それで誰かが起きて、辺りをきょろきょろと見回していたらどうしよう。知らんふりをして、傲慢にも狸寝入をしている私がその原因だと知らしめたとき、一体私はどう生きていけば良いのだろう。。。 私はますます強く目を閉じた。    ̄ ̄ ̄幸いにも、それは気付かれなかったようだ。 私は瞼の裏から、誰も起きた気配のないことを確認した。 私が起きて何をしたか知る者はいない。
後川
後川
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