『第1回NSS』桜は永遠に知らず

『第1回NSS』桜は永遠に知らず
「桜、満開で綺麗だね」 湖面に身を投げる桃色の花弁は何も知らない。 美しく風流な存在として命を賜ったという自覚以外、何も享受できないのだ。それでも桜は一つ、また一つと水面に散っていく。何かを知ろうとするために。何かを知ろうとする己を、儚い存在であると認めてもらうために。 そして、流れて行く。行き先は誰にも知られない。揚々と進んだ先に何があるのか。誰も分からないのは、進んだ先で鎮座しているのが死だけであるのを意味している。 関心は時と共に増大していくが、自由は時と共に減少していく。 「来年も見たかったな」 故に桜も死に向かって生きる。摂理には誰だって抗えないのだ。 「もうすぐ、散っちゃうんだね」 少年は、桜の花言葉を知らない。 頬を撫でる風は全てを知っている。それでも干渉はしない。瞳に涙が滲んでいるのかぐらい教えてくれても良かっただろうと個人的には思う。
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