【BL】労る

 冬の時期になると、指先から柔らかい花の匂いが立つのが好きだった。  まだ俺と彼が付き合っていた頃、彼は椿の香りがするハンドクリームを使っていた。  自炊ができる彼は、冬場も寒さを理由に面倒くさがる、なんてこともなく料理をする人だったから、手はいつも乾燥していた。それを見かねた俺が、安かったからなんて理由で適当に買ってきたのがそのハンドクリームだったのだ。 「俺、これ使うのか?女っぽくねぇ?」 「せっかく買ってきたんだし使ってよ。手の甲ガサガサよりは、良い香りさせてる方がマシでしょ」  少し困ったようにハンドクリームのチューブを見つめる彼。確かに、買ってきたそれは椿のイラストが可愛らしく描かれた女の子らしいものだったから、そういう可愛らしいものとは縁遠い彼からすれば使うのに抵抗があったのかもしれない。  だからと言って、掌に収まった小さなチューブを見つめたままぼうっとしているのも、いかがなものか。 「もうほら、手出して」  無理矢理に彼の手を取ると、戸惑いの声を上げる彼を無視して、そのままハンドクリームを塗ってやることにした。
故食
故食
恋愛ものメインでBL/GL/NLなんでも書きます。でも多分大体BL。気が向いた時にポンと置いていきます。普段はpixivとかで二次創作書いてます。