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二◯XX年、十二月三十日ーー
ハルキは連れて帰った少女を暖炉の前のソファの上に寝かせて、すぐに暖炉の火を焚いた。少女の身体には厚手のブランケットを掛けてあげた。
火がつき始めた暖炉はパチパチと音を立てて、次第にやがて紅みが募りだしていく。薪割りによって出来た木材達が燃えていく音だ。ハルキはその音がとても好きだった。彼の愛聴する、ヴェルベット・アンダーグラウンドの楽曲と双璧、若しくは匹敵を成すくらいに。
暖炉が燃え、その温度が徐々に昇りゆく内に、ハルキはキッチンに向かい、調理台の前に立った。ソファでは少女が拾った時と同様、寝息を静かに立てて眠っている。ブランケットが彼女の小さく華奢な身体を包み、その姿形に覆い被さる。果たして、彼女の身体の体温は、無事に元通りに戻るのだろうか、ハルキはそんなことを案じながら、調理台での作業を始めた。湯を張った取っ手付きの鉄鍋をコンロの上に置き火を付けて、中に切った野菜のへたや皮や種や芯などの、可食部の余りの部分を次々に入れて煮込む。ありったけの種類のその余り部分を入れ終えると、ハルキはこれもまた彼の心を落ち着かせる、そのコンロの着火により生み出される加熱音に外を一日中歩き回った疲れを癒すべく、胸の重みを委ねた。
少女の身体を背負ったまま玄関から家の中に入る際、玄関の周囲には、まさに冬らしさの表れといった具合に、氷柱や雪が降り積もっていた。今朝から絶え間なく吹き荒ぶ、大雪の冷たく吹く寒崩(かなだ)の作り出した光景だった。それは木造建築のこの林森中の一軒家の玄関扉に白く纏わりつき、固着して装飾をいかにも冷たげに施している。ハルキは、背中に少女のそれほど重くはないけれど、決して疲れた身体に楽々と背負えるほどの軽さでもない体重を両肩や腰部や手足に感じながらも、溜息を冷たく肌寒く吐き出しながら、凍り付くような玄関扉のドアノブを何とか回して抉じ開けた。もちろん鍵は付いていて、扉は帰宅を終えた玄関先の立ち姿からみて外向けに開く構造だった。
扉が開くと、軋んだ音とともに、屋根の先端に積もった雪達が僅かな量でもって滑り出してて地面に落下した。大きな音は立たずに、仄かに雪の落下地点から、白い粉雪が舞うくらいだった。地面は漏れなく一帯が視界の開ける全貌に白銀の園が偶然にも空の月星の煌めく発光を仄暗く受け取って飲み込んでいる。
玄関扉を潜り通って家の中に入って、ハルキは暗闇の中の壁の電灯スイッチを押した。瞬く間に部屋は明るくなり、靴の脱ぎ着場が照らされて、何足かの靴が姿を現す。それらは各々の形を成していて、きっちりと二足離れる事なく揃って縦に並んでいるものもあれば、片方がどこかに追いやられているように姿を消して、逸れた恋人か夫婦同士の哀しき末路のようになってしまっているもの、そして単に八の字か、く、の字のように片方が斜めっているだけのもの等、十色の模様をつくり見せていた。ハルキはその足元の景色を見て、ふと、それぞれの想いを馳せ描く希望の光かも絶望の闇かも分からない未来に向かっていく人生の中で、個々の正解の知る由もなくただ今を無力ながらに信じて歩き出して、それ故に誰かとの食い違いや意見の分裂が生じてしまい、不本意にも誰や彼かとの別れに至ってしまった人間達の社会の構図のようだな、と何となく考えた。
ハルキは背中の彼女の身体を落とさぬように足を屈めてその身体を安定させて、自分の靴をゆっくりと脱ぐ。両足の膝から上や下に感じる痛みを堪えながらも、丁寧にブーツの紐を解いたり、指先が引っ掛かったりしないように気を付ける。紐が絡まるのは、今は避けたかった。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2026/2/23 13:09
最終編集日時: 2026/2/23 14:52
阿部野ケイスケ
小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)