益虫の眼差し

 世の中おかしなことはいっぱいありますけど、一番おかしいのは人間でございます。それは私たちは人間の棲家を利用しているわけですから、無理に貶めようなんて思っていません。しかしですね、人間にとっても得になることを私たちはしているわけです。それなのになかなかな仕打ちだとは思いませんか。食料を与えろとは言いませんが、ただ放っておいてほしいのです。 「あの家は清潔だからろくな虫がいねぇ」  愚かな人間のことを考えながら徘徊していると、同族に出会いました。ここらは私たちにとって理想的な環境のエリアだと考えていましたが、どうやら最近人間の生活環境が変わってきているようです。 「こんにちは。ありがたい情報をどうも。お礼というわけではないですが、あちらの家食料の宝庫ともいえる家でしたがどうにも家主が荒くれ者でして」  同族は私の話を聞いて「あぁ」と漏らしながら察した様子で何処かへ行ってしまいました。  私は彼が教えてくれた方向へ向かわぬように新たなエリアを求めました。そうしてしばらくした頃に私はまた新たな人間の家へと辿り着きました。その家は一見すると綺麗で、とても虫が多いようには見えませんでした。  私は丁寧に方向を吟味していたつもりでしたが、気が付かぬ間に同族の忠告を無視していたのかと落胆しました。しかし、家主と思われる人間たちの話を聞いて撤退の意思を翻しました。 「最近は害虫が多くて敵わんな」  人間の想像する害虫なんざたかが知れてます。ほとんどの場合はゴキブリです。ごく稀にムカデなんかをいう人間もいますが、まぁ例外でしょう。その害虫が私たちにとっては明日を生きる食料なわけですから、人間が益虫と私たちのことを呼ぶわけも分かります。  しかし、この場合害虫というのは何なんでしょうか。私たちにとっては必要不可欠であっても人間にとっては不快そのものであるから害なのでしょうか。いや、不快でいえば私たちもそうです。
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色々書いています。