切除
私の家では、湯船に浸かる前に、一通り身体を洗い流すことになっている。それは誰に教わった訳でもないのだが、佐々木家に生まれた者としては、成すべき当然の所業であった。
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小学校四年生の時に、私は少し早めの思春期を迎え、一人で風呂に入るようになった。ちょうど陰毛が生え始めた頃のことで、私はそれを両親に悟られるのが恥ずかしかった。クラスメイトのリクは、陰毛が生えるということは大人になるための第一段階なのだと、私たちに力説していたが、私には到底それを誇らしげに思える余裕はなかった。精器は他人に見せるものではない。それは小学校四年生の私にも理解できる至極当然の摂理で、ましてや同世代の皆より一足先に思春期を迎えた私にとっては、精器の周りに情けなく生えている縮れ毛を他人に見せる勇気などなかった。だから私は、堂々とパンツを下ろし、自らの陰毛を引っ張って、その役割を説くリクのことを少し尊敬していた。リクは私と同じような皮を被った粗末な性器を持っていたが、彼のそれは、私のより幾分も逞しいものに思えた。
リクと私はそれなりに仲が良かった。家が近かったことがその主たる理由だろう。 彼は休日になると決まって私の家のインターホンを押す。その後は二人で少し遠出をして、隣町のショッピングセンターへ行くことが日課となっていた。彼はいつも五つ入りのクリームパンを買っていた。
買い出しが終わると、そのまま近くの公園へ向かう。そこには小高い丘があって、その丘の上に二人で登り、先程調達したおやつを食べる。別に何か特別な会話をするわけではない。しかし、私はその時間をとても気に入っていた。時折彼は私の肩へ手を伸ばし、遠くの方へ指を差す。あの山の向こうにある東京のタワーマンションの一番上に住みたい。ユーチューバーになってゴールデンレトリバーを二匹飼いたい。その時には、お前も俺のユーチューブのアシスタントとして雇ってやるから、一緒にスマブラしたり、ケイドロしたりしようなどと言っていた。それが私は嬉しかった。しかし、もっと嬉しかったのは、彼がそうやって夢を語る時、彼の吐息が私の耳たぶを撫でることだった。それはすごく心地が良くて、なんとなく胸の奥が熱くなった。でもそれは、決して口に出してはいけないような気がして、ただ、彼の口から漂うクリームパンの匂いを必死になって覚えようとしていた。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2026/1/9 16:05
最終編集日時: 2026/1/9 16:08
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
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