IN SINGAPORE 1
サムエルが長椅子に腰掛けて休んでいると、背中の焼き焦げた博戸が鬼の形相で此方を見ていた。博戸は激怒を抑えられず毛を立てて威嚇していたが、力尽きてその場に倒れ込んだ。サムエルは鉄砲玉のように弾き飛んで博戸を抱えると、姿も隠さず翼を広げて病院を探し飛んだ。群衆から化け物だ、怪鳥が飛んでいると騒ぎ立てられていつの間にか警察も集まっている。それでも飛んで、足で落ちていたペットボトルを掴むと山奥まで消え去った。霧の濃い竹藪で蓋を開けると背中に水を掛ける。見てみると彼は呼吸も荒く、体も熱っていた。仕方なく啄木鳥の如く竹に穴を開けて水を増やすと、自分の上着を脱いで着せてやった。こうしたところでどうするのか、という話である。もう姿は見られたのだから終わりだ。群衆を殺すか、人に成り済ますしかない。後者の方が現実味がある。なら彼をどうしよう。既に彼は何者かによって攻撃された。きっとBTを捕獲した者だろう。つまり猫の姿が知られたというわけである。チェックメイトだ。どうしても捕まる。……待てよ、捕まった方が得なのではないだろうか。内部に侵入して全員殺せばいい。ぶち殺して国外逃亡が簡単だ。鳥が殺人しようが罪に問われることはないし、攻撃されても生き残ればいいだけの話だ。サムエルは博戸を膝に乗っけて考え込んだ。人に変装して、連中の前で化けの皮を剥ぎ捨てる。そして有りの侭の姿を見せつけて、態と捕獲されるのだ。生憎、このような状況なのだから仕方がない。そう考えて袖を捲り早速準備を始めた。大きな岩を探して亀裂を探し、穴の空いた部分はないか偵察してから博戸を隙間に入れる。そして竹藪の竹を運んで巣を封鎖すると完成だ。目印に足で泥を吹っかけてまた空港に戻った。その頃、博戸は眼覚めてからも悪い夢だと信じ込み、また眼を瞑っている最中である。
サムエルは空港で大柄な男を見つけると、数時間観察した挙句、外に出てきた途端に頭を掴んで人影のないところまで引き摺った。男は助けを叫ぼうとしたが頭蓋骨を潰されて何もいえない。大脳が押し潰れて、単語のようなものだけが裏返って反響していた。そんな彼のパスポートを見てみると、過去には日本や韓国にも訪れていて最近は濠太剌利に行っている。名前はジェームズというらしい。私物を全て確認すると男の下半身に全て詰め込んで餃子のようにし、巣まで持ち帰った。警察も巡廻していたそうだが建物に紛れて見えなかったらしい。あんな摩天楼が聳えているのだから仕方がない。きっと気づいた警察官も居ただろうが、恐怖で仰け反って震えていたのだろう。餃子男を持ち帰ると竹藪を丁寧に避けて博戸の顔を見る。博戸は心底不愉快そうにしていた。
「死んでる?」
真っ先にしたのは生死の確認だった。サムエルは被害者のような顔をして頷く。また持っていた包丁で皮膚を剥いで当然の如く解剖を始めた。博戸は竹を拾い上げて閉じ籠ると無口になってしまう。皮下脂肪……筋肉……骨……取り除いて、臓器も何もかも削ぎ落とした。薄い皮だけになると、それを着て、足りないところは筋肉を擦り潰して詰めたり鼻の部分に嘴を当てたりして男になりすました。残った臓器を半分食べて土の下に跡形も無く埋め込む。博戸は覗きながら信じられぬといった調子である。
「真似生物でも珍しい方向だねえ。ご覧の通りドン引きさ」
頗る厭そうだ。サムエルは依然として堂々としていた。何処からその自信のようなものが湧き出てくるのだろうか。焔に塗れた猫を見たことがあるが別の方向で捻子が取れていた。サムエルは男の体を使いこなして腕を組んだり大股になる。
「貴方も着皮しますか。断末魔を元に声を再現してみたのです。仕草もうまくまねてるでしょう」太く低い声だ。筋肉質で一見すると鳥だなんて予想すらできない。でも背中は穴が空いており、翼が生えていて天使みたいになっている。押し込めば収納できると言われたものの、触ると肌が硬く冷たくて押し込む気にもならなかった。
「遠慮させてもらうよ」苦笑して言った。
「そして、偵察を頼みましたが何かありましたか?」
「……男が二人組でねえ。聞く話によると新加坡の連中だそうだ。それでBTを商売に使う気らしい。オークションを開くのだとか……。それでタクシーで空港の方に向かって、私に勘づいたらしく爆竹を投げてきたわけさ」
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カテゴリー: ホラー
投稿日時: 2026/3/22 15:29
最終編集日時: 2026/4/2 6:29
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
愛染明王
身の廻りに住んでいる動物達の一日を書き留めている。好きなものは菌類を含めた生物全般、そして女性。作品を此処に書き留めては読み返し、日々修正を重ねている。