墨と猫

墨と猫
第2章 インクの匂いと心の揺れ スタジオの中は、彩花の想像以上に静かだった。壁にはモノクロのタトゥーのデザイン画がずらりと並び、棚にはインクの瓶と彫り針が整然と置かれている。凛さんの仕事道具は、まるで彼女自身のように無駄がなく、どこかミステリアスだった。 「座りなよ。クロ、邪魔しないようにね。」 凛さんがそう言うと、黒猫のクロはしなやかに床に降り、彩花の足元でくるりと尾を巻いた。彩花は小さなソファに腰掛け、制服の裾をぎゅっと握った。凛さんの存在感に圧倒され、言葉が出てこない。 凛さんは作業台の椅子に腰を下ろし、長い脚を組んだ。黒のタンクトップから覗く肩には、繊細な桜のタトゥーが咲いている。彼女が首を傾げると、ピアスのついた耳が夕陽にきらりと光った。彩花は目を逸らしたかったのに、なぜか視線が釘付けになる。
くろねこ
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主に百合小説を書きます 甘酸っぱいひと時の青春