キャンドル

その人は朴訥としていた。手はすらっと長く美しい。おそらく小学生の頃は秀才だったに違いない。眼鏡を鼻にかけるその手に嫉妬してしまう程だった。すれ違いざま挨拶をすると殆んどの医者は返さないのに。 彼は律儀に「おはようございます」と返すのだった。ネームプレートが揺れて名前がよく見えない。 しかし、私は今日から彼のことを朴訥くんと呼ぶことに決めた。だが、私に宿った恋の炎も長くは持たなかった。彼の美しく長い左の薬指には指輪があった。私のときめいた心の炎は一瞬にして消え去った。
テディベア
テディベア
詩を長年書いてます。詩では銀色夏生さん。小説では江國香織さんが好きです。あまり固苦しくなく、気軽に読めるものが好きです。