返し方
砂時計がある。テープを貼った。中身が見えないように、丁寧に貼った。黒いテープは砂時計を隠して、中身の有無も判別できない、ただ砂が積もる音だけが聞こえていた。
わたしは朝起きて、必ず砂時計をひっくり返す。砂時計の砂が落ちる音が聞こえていても、返す。それから、カーテンと窓を開けて、朝ごはんを食べる。トースターは一分ほどで焼き上がり、軽い音を立てて熱いパンを上に吐き出す。バターとジャムをナイフで薄く伸ばしてから、コーヒーを三十秒蒸らす。まだ砂の音はする。三分間歯を磨いて、スーツを着ると、いつもと同じ、七時四十二分。
わたしは駅に来た電車に乗る。二十分後、会社の最寄り駅で降りる。会社まで十分ほど歩く。仕事は九時に始まる。十二時になれば昼休み。昼休みは一時間。十二時三分、時計を見る。砂はまだ落ちているだろうか。わたしは弁当の蓋を開けた。弁当は十二分で食べ終わった。三分半の歯磨き。十二時五十五分に席に戻る。十七時三十分に退勤する。電車で帰ると十八時十三分。玄関を開ける。砂の音がしない。靴を脱がずに床を踏む。さら、さら、と鳴る。わたしは床も拭かずに部屋に入って、砂時計をひっくり返す。スーツを脱ぎ、風呂に入り、十九時二十分に夕飯を食べる。三分間歯を磨いて、電気を消す。わたしは寝るまでの間、砂時計を見つめる。テープで巻かれた砂時計、中身も見れないものを、わたしはじっと見る。ただそこにあるだけで、今はただ、音の鳴る道具だ。砂時計がいつまで測れるのか、測ったことはない。二十二時三十分、わたしは眠る。
六時三十分、目が覚める。砂の音がしない。砂時計を振る。さら、さら、と音がする。わたしは息を吐きながら、砂時計をひっくり返す。
カーテンを開ける。トースターを一分、コーヒー三十秒、歯磨き三分。スーツを着て、七時四十三分。口が開いた。わたしは一瞬、時計に置いていかれた。仕方なく駅に向かう。一つ遅れて電車に乗る。三分遅れて会社に着く。仕事は九時に始まった。わたしは五分遅れてパソコンを開いた。十二時三分、弁当の蓋を開ける。副菜に入れた二つの卵焼きは、となりのほうれん草と混ざっていた。弁当は十八分で食べ終わった。二分の歯磨き。十二時五十分に席に着く。気がつくと十七時四十分だった。電車をまたひとつ逃す。玄関のドアを開ける。砂時計を返す。風呂に入って夕飯も食べずに、砂の音を聞きながら寝た。
0
閲覧数: 32
文字数: 1391
カテゴリー: その他
投稿日時: 2026/9/6 15:03
かきあげ
バナナです