第四章 ~古の魔人~ 3

第四章 ~古の魔人~ 3
「ギ……ギガ―スですって!」  一頻り続いた静寂を打ち破るかのようにステラが高い声で叫ぶ。あまりに突拍子もない発言に、セルフィーも思わず息を呑んだ。  おそらく、世界中の誰もが一度はその名前を聞いたことがあるはずだろう。ザッハークのことなど知らなかったセルフィーも、当然のようにその名を知っていた。  【魔人ギガ―ス】。  人間と亜人が争いを始めるよりも昔、世界が暦を数え始めるよりも遙か以前に存在した旧世界を焼き尽くしたとされる、忌まわしき破滅の象徴である。もはやその名は口にすることさえ憚られるような禁忌として現世に伝えられている。  ただし、あくまでそれは神話の世界の中での話。ギガースなどという生物は数多ある神話の世界にのみ存在する架空の創造物であり、それが実在するなんて信じている者は、おそらく誰一人いないだろう。 「馬鹿なこと言わないで。そんな迷信、信じるつもり?」  ステラも俄かにはその存在を信じられないようだった。セルフィーも同じことを思った。例えこの水槽の中のものが生物であるとしても、いくらなんでもこの産業文明の発達した科学の時代に、魔人だなんて馬鹿げていると思った。  しかし、否定する根拠などありはしない。実際これだけ巨大な生物の正体を知っている者など誰もいなかった。  矢庭に姿を現した想像の余地を遙かに超越した異色の存在を前にして、ただ強い戸惑いだけが五人の間に渦を巻き混濁する。
ユー