反転望遠鏡
ある男が突然壇上に立ち上ると、演説を始めた。この男の言うことは、あまりにも衝撃的で、突然現れた男を民衆は不審に思っていたが、次第に人は増え、耳を傾け始めた。そうして間もないうちに、ゴミ袋が沢山必要になっちまった。一体、この男は何を言ったと思う?
多分、世界は間違っている。だから、皆一様にその間違いから目を逸らして、それでいて、この世界に生きているんだ。
『反転望遠鏡』これが、この世界で生きる為の必需品だ。この望遠鏡は生まれた時に与えられて、全ての人は一生これと暮らして行く。一生を共にするこの望遠鏡は必ず、レンズの大きい方を覗き込むように使用する。これが世間一般の皆様が、信じて疑わないこの望遠鏡の正⃝し⃝い⃝使⃝い⃝方⃝だ。私だって疑わなかった。この望遠鏡はそのためにあると思っていた。まさか、そうじゃないなんて思いもしなかった。
ある時、とある私の友人が、一言言ったんだ。「最初からこの使い方で作られた代物なら、この望遠鏡の名前は何故『反転望遠鏡』なんだ」ってね。その時は、そんなこと大した事だなんて思いもしなかった。でも、その友人は違った。そう、私も突然のことに心底驚いた。何をしたかって、覗き込んだのさ。それも、小さい方の穴をね。でも、私が一番驚いたのはそれじゃない。正直言って、そんなことよりもっと驚くことは他にあった。だって、突然雨が降ったんだ。彼女がそのレンズを震わせて。察しが悪いようだから言ってやる。そいつはさ、泣いていたんだよ。それはもう、心の底から、感動した様子でね。そんなもんを見せられちゃあ、私だって覗きたくなる。多分その場に居たら、誰だってそうしただろうさ。手っ取り早く結論から言ってしまえば、私は覗いて、そして見た。この世界の正しい姿をね。だからさ、あんたもまず、疑いなよ。この世界の当たり前をさ。
そうして女は、俺の望遠鏡に手をかけた。
俺の望遠鏡が動き出して、レンズが移り変わって、そして起きた。これは夢だ。自然と握られた手には、自分でも意外な程に力がこもっていた。手をゆっくりと開くと、中にあった望遠鏡に汗がべっとりと付着している。俺の世界を変えたあの日から、俺の手の中には望遠鏡がある。
『反転望遠鏡』なんてものは始めから存在していなかった。これはただの望遠鏡で、ただのレンズに過ぎないってことだ。世間一般の皆様と、少し世界を疑った二人の女が勘違いして疑い切れなかった。それがその望遠鏡の正⃝し⃝い⃝使⃝い⃝方⃝だ⃝。だから、全て取っ払って見た俺はこう思う。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/5/6 0:33
じゃらねっこ
ねこじゃらしが好きなので、じゃらねっこです。