派遣サンタはじめました
「…うん、ごめん。今から帰るよ。先に寝てていいから、うん。」
電話向こうの妻はクリスマス当日に急な残業が入り約束していた二人の時間を過ごせなかった俺を責めることもなく、寒いから気をつけてねと気遣ってくれたうえで電話を切った。ただ、隠しきれない落胆の声のトーンではあったが…
きっとささやかながらもクリスマスの料理とかも用意してくれていたのだろう。師走でどうしても仕事が忙しく、結婚二年目であるにもかかわらずなかなか二人の時間がとれない中にようやく絞り出した二人の時間になるはずだった。
…まぁ、定時間際の無情な電話一本でそんな予定は儚くも吹き飛んでしまったわけだが…
急な残業が入ったことも妻は「師走、しかも年末だもの。それで駄々をこねるほど私も子供じゃないわよ。」
理解がありすぎることが今はむしろ辛い。
帰りの電車に飛び乗るために足早に暗い冬の街の帰路を急ぐ。今からなら何とか日付が変わる前に帰れるだろう。
口から白い息を漏らしながら何とか駅前に着くと改札前で人だかりができていた。
嫌な予感、いや、状況的に確信を持つ。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2021/12/11 17:42
紫水
大体3000文字前後の短編読み切りがメインです。
皆様の5分程を埋めるお手伝いができれば幸いです。