ハンバーガー部隊
戦局は終盤に差し掛かっていた。始めは50以上あった部隊が、負けて消え去るか、勝って戦線から離脱するかで、戦闘が続いているのは残り8つ。生き残りのための枠を勝ち取るのはそのうちの3つだけ。本来なら死に物狂いでその枠を狙わなければならない場面だが、ハンバーガー部隊には既に諦めムードが漂っていた。というのも、その他の部隊には、ほぼ勝利を手中に収めているフィッシュフライ隊をはじめとして、スパイシーチキン隊、ベーコンレタス隊、ソーセージエッグ隊など、昔から主力として活躍してきたものが多く残っていた。はっきり言って、機動力(値段の安さ)以外に取り柄のないハンバーガー隊には、その力の差をひっくり返すなどまず有り得なかった。案の定、フィッシュフライ隊の勝利がたった今確定し、戦線を離れた。これにより、7つの隊が2つの枠をかけて争う事になる。
「もうダメだ・・・」ポツリとオニオンが呟いた。「他はみんな俺たちの上位互換じゃないか。どう足掻いたって勝てっこないさ」「、、、確かに、そうかも知れない。」普段は明るいマスタードも、今回ばかりは参っていた。ケチャップもそれに続く。「もう、時代が変わったって事なのかしらね。」パティは黙ってこのやり取りを見ていた。みな長年苦楽を共にしてきた仲間たちである。それが、今日で終わりを迎えようとしている。だが実際、これは覚悟していた事だった。年々様々なメニューが増える中で、古参であるハンバーガー隊は不利な戦いを強いられてきていた。そして、とうとうここまで追い詰められてしまったのである。バンズが言った。「みんな、今までありがとう。このメンバーだったから、ここまでやってこれた。」マスタードが目に涙を浮かべる。それに、皆がもらい泣きしそうになる。その時だった。「みんな、本当にこれで終わりでいいのか?」今まで黙っていたピクルスが口を開いた。パティは驚いた。いつものピクルスは辛口で、言ってしまえば好き嫌いの別れるようなタイプだった。だからこそ、そんな台詞を言うとは全く思っていなかったからだ。ピクルスは続ける。「あの店が始まったときから、俺たちはずっと一緒に頑張ってきたじゃなんじゃないか・・・初めて俺たちを食べてくれた人のことを覚えてるか?」パティは記憶を呼び起こした。「あぁ、覚えてるよ。4人組の家族だったな。」ケチャップも懐かしそうに言う「確か、子供が食べるときに私を押し出しちゃったのよね。あと少しで落ちるってときに、オニオンが私を食い止めてくれたわよね。」「そういえばあったなぁ、そんなこと。もうずっと昔のことに思えるよ。幸せそうだったな、あの家族。」そう言うとオニオンは、少し笑って空を見上げた。あの時と同じ、穏やかな晴天だった。しかし、スッと真剣な表情に変わって、オニオンが言う。「でもな、ピクルス。もう時代は変わったんだ。ビジュアルが良かったり、具が沢山いたり。そういうこれ、といった長所が無いと、生き残れない時代なんだ。分かるだろ。」確かに、オニオンの言う通りだ。新しいものが出てくるにつれ、古くカビの生えたものから消えていく・・・これが世の常だ。変えられぬ運命だ。
「おかしいじゃないか、そんなの。どうして古いものは消えなくちゃいけないんだ?古くても立派なものはあるし、むしろ古いものにしか出せない力もある。」「えっ?どういうこと?」ピクルスの言葉に、マスタードが問いかける。「それは、昔からずっと変わらない・・・という安心感だ。昔を思い出して懐かしませる力だ。食べてくれる人の心をあたたかくする、そんな力だ。それだけは、他の誰にも、絶対に負けちゃいない。」バンズが力強く頷く。ピクルスが続ける。「俺たちを待ってる人がいるんだ。必要としてくれる人がいるんだ。そういう人がいる限り、戦わなきゃいけない。諦めちゃいけない・・・俺たちの賞味期限が、切れぬ限り。」
パティはふぅと息を吐き、ピクルスの言葉を胸に染み込ませた。マスタードはまた涙を流している。「みんなに聞きたい。まだ戦う意思があるのかどうかを。」ピクルスは皆に問うた。「分かった。戦おう。」バンズが言った。「私も戦うわ。」「僕も。このまま終わりたくない。」ケチャップとマスタードも、それに続く。「もちろん、私もだ。」少し笑って、パティはそう言った。「お前はどうする?」ピクルスがオニオンに問う。オニオンはニヤリと笑って、こう呟いた。「作戦は?」
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カテゴリー: お題
投稿日時: 2022/9/4 15:53
こころ虎