骸ノ憶

骸ノ憶
 想音は、私の「好き」を全部覚えてくれている。いつも私の好きなものをたくさんくれる。苦手なトマトをよけてくれる。私の髪を撫でて、きらりと鈍く光るお気に入りのヘアピンをつけてくれる。  それだけじゃない。たとえば、私が「最近、桜味の何か食べたいな」って言ったら、次の日には桜餅がテーブルに置いてある。 「ほんとに、どうしてそんなに気が利くの?」 私が笑いながらそう言うと、想音は一重のキリッとした目を細めて、少し照れたように笑った。 「だって、好きな人の“好き”を知るのって、大事でしょ?好きな人には笑ってて欲しい。僕は、だから紬喜の“好き”を大事にしたい。」 笑いながら、真面目なトーンでそう発している。そういうところがずるい。優しさが自然すぎて、真面目すぎて、こっちの胸が苦しくなる。  想音は完璧だった。完璧に私のタイプだ。想音のすることは全部、私の寸法にぴったりだ。私の苦手なものがのせられた皿をそっと寄せ、寝癖を直すときはその冷たい指先をそっと髪に這わせる。欠点があるはずの隙間を、彼はいつも簡単に埋めてしまう。顔つきも性格も全てがどタイプで、その上私にひたすら尽くしてくれる。こんなにぴったりの人は多分もう見つからないと思う。だから私は、この人をちゃんと大切にしたいと思っている。  わたしたちは、特別なことは何もしていない。2人で旅行とか、そんなことはしない。テーマパークも行ったことがない。水族館も行かない。イルミネーションも見ない。そんなありきたりなデートを私たちは望まない。学校が終わったら公園に寄って、ベンチで話をして、それから一緒に帰るだけ。その時間が愛おしくて、これ以上もう何も望めない。  「あ、今日も右側歩くんだね」
骸ノ詩
骸ノ詩
皆さんこんばんは、骸ノ詩です。 暗い系が多いですが、寄り添えるようなお話を目指しています。 どうか皆さんの心に小さな灯りを灯せますように。 ちなみにコメントに喜びます(笑)