第9回N1 『夜の警鐘』
眼前に広がる黄金色の小麦畑は、赤色の夕日を受けて眩いほど輝いていた。風に靡かれ、所々がその輝きを一層増している。
街を丸く囲う壁の上部には数個の突起型の塔がある。石造の高い壁は幾度も補修を繰り返された跡が残り、苔むしている箇所もある。
塔の小さな空間に佇む男は足を組みながら小麦畑を眺めている。整えられていない髭に深爪、乾燥して固まっている髪の毛。服は、一度強風に晒されれば飛ばされてしまいそうな一枚の布切れだけだった。
塔の上部には鐘が付いており、男は鐘につながった紐を握っていた。首や指先の関節を鳴らしながらも、男の視線は小麦畑から離れない。
街を囲う石壁の外にある小麦畑のさらに外側、地平線と重なるほどの位置に黒い靄が薄らと見えた。まだ音も聞こえないほどの位置にある靄を捉えた男は力の限り紐を振った。男とほとんど同じ大きさの鐘はその見た目に負けない音を奏でた。
鐘の音は街中に響き渡り、人々はそれが訪れたことを察知して顔を顰める。一部の人々は厚手の防護服に着替え、背に大きな火炎放射器を積み、足早に壁の外へ向かう。男の鐘の音が響いてから僅か数分のうちに、防護服の人々は石壁の外で隊列を組んでいた。
男は防護服の隊列を壁の上部から捉える。鐘を鳴らし終えた男は風に揺れる小麦畑と靄がどう行動するかを見ていた。
靄は近づけば近づくほど不快な音を鳴らし、それが羽音だと気がつくのにはそう時間はかからなかった。幾千、幾万の虫たちが小麦畑を狙って向かってくる。
訓練された動きの隊員は火炎放射器を構える。何の防護服も着ていない虫はその熱に燃やされ、何匹もが力尽きた。
塔の上から見ると靄の動きと食べられていく黄金色がよく見えた。そしてそれらを包み込む火も。男は浅く息を吸い、虫と共に焦げる小麦畑の音を聞いていた。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2026/4/5 3:47
K
色々書いています。