啓示と破壊

「なるほどね。その時から既に、それまでの君というものは破壊されていたわけか」 「客観的に見ればそうだろうね」僕は、彼女の言い方に対して譲歩する。それなりの長さの付き合いだ。彼女が極端な言葉選びを好むことは、よく知っていた。 「けれど、僕の主観としては、それを啓示と呼びたい。サウルがパウロとなったように、その人生観の変転を喜ばしいものと思っているから」 「しかし、君の転向は、君自身を救済しない。君がしてきたことは、君自身が正当化できない。君が捨て、今は殻だけが残っているそれの方が、よほど君に優しいのではないか?」  彼女の言葉は、僕自身が鏡に向けて発したことそのものだった。それをこれまで何度唱えて、……沈黙を返し続けてきただろうか。  僕の顔に何を見たのか、彼女はため息を吐いた。 「……ナザレのイエスを救世主とする人々には同情を禁じえない。君のような存在が、彼をキリストと呼ぶことはまさしく福音だった。彼らにとっての終末も遠ざかったことだろう」 「鐘が鳴ったんだよ、ガブリエル。鐘の音を聞く人は、その音を止めることができない。鐘楼の元へ行くにしろ、音から逃れて離れるにしろ、目を覚まさなくてはならない」  彼女がぼくを睨みつけた瞬間、彼女の手は、僕の襟を掴み上げていた。 「ならば、伊藤、お前は寝ていればいい。何故、よりによってお前が鐘に応える? もっとうまくやる奴がいくらでもいる。今からでもいい、お前は目を閉じていろ!」
アムセット