一番綺麗な景色

「今日の空はね、吸い込まれそうなくらい深い青だよ。そこに、ちぎった食パンみたいな白い雲がいくつか、のんびり浮かんでる」 放課後の教室で、僕は窓の外の景色を言葉にして、彼女――遥(はるか)に伝えていた。遥は僕の方に顔を向け、少しだけ小首をかしげて、嬉しそうに目を細める。その瞳は澄んでいるけれど、僕の姿を映してはいない。彼女は生まれつき、光をほとんど感じることができない盲目だった。 「ちぎった食パン。ふふ、おいしそうな雲だね、悠介(ゆうすけ)くん」 鈴の鳴るような声で笑う遥の横顔を、僕はいつも見つめていた。高校で同じクラスになってから、僕は気がつけば彼女のことばかりを追いかけていた。誰もが彼女を気遣って一歩引いた態度をとる中で、僕はどうしても彼女の力になりたかったし、何より、その笑顔のそばにいたかった。一言で言えば、僕は遥のことがどうしようもないくらい好きだった。 だから僕は毎日、彼女にアプローチを続けた。他愛のないおしゃべりをして、彼女の手を引いて色々な場所へ出かけた。海の近くの公園へ行ったときは、波の音と潮の匂い、そして頬を撫でる風を言葉にして伝えた。お気に入りのカフェでは、焼き立てのワッフルの甘い香りと、サクサクとした音を一緒に楽しんだ。彼女を危険から守るために繋いだ手の温もりは、いつも僕の心臓の鼓動を狂わせた。 けれど、僕が「好きだ」と想いを口にするたび、遥は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべて、静かに首を振るのだった。 「ありがとう、悠介くん。でも、私は目が見えないから。もし付き合ったりしたら、きっと君の重荷になっちゃう。君の優しさに甘えて、迷惑をかけ続けるわけにはいかないよ」 彼女の拒絶は、僕を嫌っているからではないことのような気がしていた。自分という存在が誰かの負担になることを、彼女は何よりも恐れていた。だから僕は、何度断られても諦めなかった。迷惑だなんて思ったことは一度もない。彼女の目になって、世界にあふれる色彩を、美しさを、全部その心に届けたいと本気で思っていたから。 しかし、遥が頑なに僕を遠ざけようとしていた理由は、それだけではなかった。彼女はその時、もう一つの大きな秘密を一人で抱え込んでいたのだ。彼女の瞳を奪った悪魔は、すでに彼女の体の中で、静かに、確実に彼女を蝕んでいた。 ◆
おまめ
おまめ
初めまして、おまめです 私の小説は恋愛小説がベースになります。儚い愛の美しさを表現できるように日々努力していきます もしよければ私の小説に一度目を通してみてください