金木犀

 夜道を散歩していると、冷たい風に乗って、金木犀の香りが鼻をくすぐった。  辺りを見回しても、金木犀は見当たらなかった。  夜に香りが強くなって、姿は見えなくても、良い匂いがするから、幽玄なんて花言葉が付いたのかな、だとか、真っ黒な木を見つめながら思った。  強い香りに誘惑。花が小さいから、謙虚。 「新しいボディーソープ買ってきたよ。金木犀の匂い、良い匂いだよね」君はドラッグストアから帰ってきて、嬉しそうにしてた。 「そっか」 「お風呂に置いとくね」 「うん」  金木犀の香りがすると、君の寂しそうな顔を思い出す。  別れてから、金木犀の香りが鼻をくすぐる。
英兎