ある世界の記録書――羊と駆ける

ある世界の記録書――羊と駆ける
 柵を開け、走り出した羊たちを見送る。空は雲ひとつなく澄み渡っている。胸いっぱいに深呼吸をし、今ある幸せを噛み締めた。  俺には両親がいない。いや、出ていった、の方が正確だろうか。母は四年前に病気を拗らせて亡くなった。その一年後、父が王都へ向かって以来、その姿を見ていない。  置いていかれたのがこの村で良かった。まだ十歳だった俺を、村の人は見捨てなかった。すぐに異変を察して、王都へ見回りに行ってくれた程だ。それなのに、父は見つからなかった。 「セレノ! 今日はサンドイッチ持ってってあげるね!」  声に振り向いてみると、道を挟んで向こうから茶髪でウサギを思わせるような可愛らしい顔立ちの幼馴染――エミリが手を振っている。 「ありがとう! お礼はいつかするから」
七宮叶歌
七宮叶歌
恋愛ファンタジーな連載と、ファンタジー、時々現代なSSを載せています。エッセイも始めました。 フォロー、♡、感想頂けると凄く嬉しいです♩ 他サイトでは、小説家になろう、カクヨム、NOVEL DAYSで投稿しています。 NSS、NSSプチコン優勝者、合作企画関係の方のみフォローしています*ᵕᵕ お題配布につきましては、連載している『お題配布』の頁をご確認下さい。 小説の著作権は放棄しておりません。二次創作は歓迎ですが、掲載前に一言でも良いのでコメント下さい。 2025.1.23 start Xなどはこちらから↓ https://lit.link/nanamiyanohako お題でショートストーリーを競い合う『NSSコンテスト』次回2026年1月1日開催予定です。 優勝者  第1回 ot 様  第2回 ot 様 NSSプチコンテスト 優勝者  第1回 黒鼠シラ 様