青空ダイブ
私は、今日死ぬ。隣にいるこの子と一緒に。数少ない友達の一人。風は音を立てて強く吹いていて、今にも吹き飛ばされそうな程だった。私達はただ無言でコツコツと屋上の端まで歩いていき、持ってきたペンチで亀甲金網をパチパチと切る。
「ねえ、怖くなった?」
彼女は不意に私に問いかける。怖くないと言うと嘘になる。だが、この現実を受け止められるほど私は強くない。私は首を振って切れた金網を屋上の中央へと投げる。2人は出来た小さい穴に体を小さくして屋上の外へと足を踏み入れる。
「ごめん、私やっぱり本当は怖い」
彼女が私の隣に立つと、少しばかり顔を強ばらせ足を竦ませてそういう。
金網が無くなった空の世界は驚くほど広く澄んでいてより鮮明に景色が目の中に飛び込んできた。風がさっきよりも優しく吹き、私たちを包み込んでくれるような感じで私は受け入れてくれてるのだと思っていた。すごくすごく、居心地がいい。このまま飛び込めばきっと、此処よりかはマシなところに行けるはず。違う、きっと受け入れてくれてるんだ、二人で幸せになれる。
「じゃあ、手を繋いで飛び込もう。大丈夫、一人じゃない。」
私は左手で彼女の僅かに震える右手を握り、優しく笑う。いつぶりに笑ったのだろうか。ここから居なくなれることより、彼女と二人で新しい世界に行けるのがよほど嬉しかったんだと思う。彼女は私の手を握り深呼吸を始めた。私も同じように深呼吸を始める。風が鼻の中に入り込んでは口から出ていく。うっすら目を開ければ空は曇りひとつ無くて、ただゼニスブルーの青い空が街を飲み込んでいる。今日も街は私たちを置いて騒がしく慌ただしい。車の音が耳障りなほど五月蝿くて、後ろでは電車がグルグルと山手線を走っている。気がつけば彼女の手は震えていなくていつもの微笑みが顔に貼り付けられていた。ただ何も言わずに真っ直ぐに私のことを見ていた。私もこれを最後にしようと思い、貼り付けられた微笑みを仕返しでやる。
「さ、いこうか。」
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2024/2/15 2:14
田中
心に残る小説を。