バンドマン

「俺、将来はお前のこと養えるくらい有名になるから。」 彼と付き合い始めたのは高校ニ年生、一つ上の軽音学部に所属していた彼に一目惚れした。彼の鳴らすギターの音が当時の私の全てだった。 約ニ年間の山あり谷ありの交際期間を経て、私の卒業と同時に二人で家を借りた。彼は音楽の専門学校に行っているためあまりいい部屋は借りられなかったが私はそれでよかった。彼といられるならこの狭いワンルームもシャンデリアがついて見えたし、外には夜景が見える気がした。  ある日から彼の帰りが遅くなった。バンドのメンバーと飲み会と言っていたが私は知っている。彼が他の女とホテルにいること。彼が私を騙していること。 それでも私はこの生活を守り抜いた。 彼がここに帰ってくるならどうでもよかった。高校では誠実だった彼が黒髪から金髪に変えた理由も、ピアスの数が日に日に増えているのも、最近歌詞がよく思いついているのも。全部他の女のところに入り浸ってからだ。何回女が変わったのかは分からない。ただ自分のところだけには毎日帰ってきてくれてるという事実だけで幸せだった。  大学2年の春、私は彼に別れを告げた。 彼は「バンドでもうすぐ食っていけそうなんだ、そしたら〇〇と結婚して子供も作って幸せに暮らそう。」そう言った。 「私もそれを望んでた。」  彼は私との交際期間の間に他の女と結婚していた。
濡れた犬の鼻の下
濡れた犬の鼻の下