アキに誓う プロローグ

冬の寒さが本格的になって来たある町で1番大きな公園で、家族連れや友達同士で遊ぶ人の多い中に、一人で大きな木を見上げている少女がいた。何やら一心に何かを祈っているようだ。 「樹望!」 母親らしき女性に名前を呼ばれ少女−−佐久良樹望(さくらいつみ)は振り返って声の方へと駆け出した。 「お母さん! お仕事お疲れ様」 「樹望も学校おつかれさま。また木にお願いしてたのね」 「もう一度会えるなら、早く会いたいから」 樹望は、幼稚園の時にこの木の前で出会った青年に好意をよせ、高校一年生になった今でも、「また会おう」と言った青年の言葉を信じて、毎日ここへ来ては姿を探し、いないと分かると木に祈っているのだ。 樹望が幼稚園を卒園する年、彼女は家を飛び出してこの公園まで来たことがあった。シングルマザーで忙しく働いている母の帰りがあまりにも遅く、寂しくなってしまったからだ。もちろん、勤務時間中の母は近くにいるはずもないし、まだ幼い樹望には行動範囲も絞られる。自宅から15分程で着くこの公園の木の下で、幼かった樹望は疲れ果ててうずくまってしまった。 「キミ、どうしたの? おうちの人は?」
紅居なずな
紅居なずな
元文芸部