命奪う前に、心奪いました

 その女は、真っ直ぐ俺を見上げた。 「……お前、今自分が置かれてる状況、分かってるのか」  あまりに真っ直ぐで、あまりに感情の読めない瞳で見上げて来るので、俺は半ば不安になってそう問い掛けた。  俺の右手には、拳銃が一丁。  銃口は女の額ゼロ距離。  だが彼女は、一秒後には確実に殺されるという状況下にあって、眉一つ動かさない。 「分かってますよ。でも、殺さないでと言えば、銃を下ろしてくれるんですか?」  冷えた口調で返って来た答えは、予想すらしていなかった言葉。  ーー殺し屋、なんて残忍な稼業をやり始めて随分経つけれど、銃を突き付けられて命乞いをしない奴も、泣いて許しを乞わない奴も、初めてだ。
和菜
和菜
「小説家になろう」で小説を書いてます。 誰かの目に止まったらいいなぁ……