ころころと

ころころと
 或る雨の日の事だ。アンブロシア学校の一角は今日も色彩硝子から輝きを漏らしている。雫に色彩硝子の色が反射し、煌めいて落ちる。まだ空は重苦しく暗い。  そんな時、一頭の竜が石造りの外廊下を歩いていた。此の学校の制服……濃紺外套の下に緋色のシャツを纏って、静かに濡れていた。革靴を鳴らして進み、寮まで歩いているとフードを被った男とすれ違う。背筋を撫でられる様な感覚に、思わず心臓が震える。その竜、エヴァンは何も知らない振りをして、通り過ぎようとした。 「やあ、元気ないねー」  驚く程、地面を貫く様な低い声だった。青毛が覗き、淡青の眸がゆらりと揺れている。エヴァンは彫刻が上から崩れてゆくかの様に焦燥と怯えに駆られた。胸の中で砂埃が舞っている……そう思う位、ザワリと嫌な感覚が襲ってきた。 「……別に」喉の奥が震えた。 「へえ。そういえば、エヴァン君は今日のテスト九十九点だったよね。一点何に落としたの?」  絡み付くような、そして棘のある言葉だ。唖然としているエヴァンに近づきながら囁く。 「ディアーノも、僕も百点だ。あの能無しにも負けるなんて、君病気にでもなったのか」 「……ごめん、ごめんなさい」  涙を堪えて、足がふらついたのか蹌踉めく。その場から一刻も早く去ろうと後ろに一歩下がると、勢いよく胸倉を掴まれ壁に叩きつけられた。骨に響く痛みの余韻と、冷えた血が薄ら残る。視界に靄が掛かったように、白い。その中で青豹の顔だけが、ハッキリと見えた。
愛染明王
愛染明王
幸せな物語は書きたくありません。Twitterに載せてるやつ書き留めてます。