第十三幕:追跡

その日、彼は昨夜の出来事から口数が少なくなっていた。口内に残る鉄錆びの味と脳質の感触が、未だ拭いきれない罪悪感となって彼を苛む。群衆のざわめきが耳障りで、リリスの隣でただ黙って立ち尽くすことしかできなかった。 一方、リリスは違った。彼女はまるで水を得た魚のように、活発に動き回っていた。司書の邸宅前は相変わらずすでに野次馬でごった返しており、人々は顔を青ざめさせながら恐怖の噂を囁き合っている。彼女はそんな人々の輪の中へ臆することなく踏み込み、彼がその場を離れようとすると、さっと彼の腕を掴んで引き留めた。 「ねえ、そうよね、アレクセイさん。みんな『獣の仕業だ』って言ってるけれど、おかしいと思わない? 記憶喰いは記憶を喰らうだけって、そんな単純な話じゃないわ」 彼女はそう言い放ち、「相手の思考を喰らいたいと思った上で脳を喰らいたいと思うのは何らおかしいことではない」と、今日彼が彼女と顔を合わせてから五回目の持論を展開した。 彼はうんざりした。 彼は相槌を打つ気力もなく、ただ目を伏せる。リリスは彼の答えを待たず、人々に向かって矢継ぎ早に質問を浴びせていく。
さきち
さきち
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