存えの樹 第一話 鈴の音

存えの樹 第一話 鈴の音
東北の田舎町、田園地帯が段々に長らく連なって続いて暫くすると、上や下へと市道がくねって家々を挟みつつさらに続いていく。 入り乱れた道の詰まりに五十人程度が暮らす聚楽(じゅらく)があり、周りを背の高い杉の木の群れが針のように空を刺している。 父親の代からこの地に移り住み小さな薬屋を営む平井栄治(ひらいえいじ)は、もう三十路も過ぎたというのに浮いた話どころか、度々知り合いから持ち込まれる縁談も最近は断るようになっていた。 家族はいない。 母は病に伏したのち早くに亡くなり、父は大戦から帰って来ることはなかった。
den龍
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