竹光、奔る

竹光、奔る
 井伊行忠は御家人である。  本家のような宮仕えにもならず、笠を編んでは酒を呑むだけの、つまらない日々を送っていた。  しかしながら、本人はそんな暮らしも一向に構わんという調子だったので、同心になった幼馴染たちも、行忠を説得する言葉を持ち得なかった。  ただ、それでも顔を合わせればいつものように飯や酒代をたかられるので、ついには見捨てるように離れていった。  満月の晩であった。  宵の口から店の端の席に座り込み、芋で呑んでいた行忠は、いつものように酒が進まず、気付けば卓の上に突っ伏していた。  これはいかんと手拭いで顔を拭き上げ、酒代を置くと、脇に置いた刀を取った。  軽い。  その刹那、行忠は背筋がじとりとするのを感じた。
四季人
四季人
挨拶がわりに「読んだ記念」していくおじさん。