ピンクの鯨 

ピンクの鯨 
第一章 出会いと別れ 

ソルトシュガーの空は、今日も砂糖菓子のように甘く淡いピンクに染まっていた。 
マナは、その空を見上げながら、古びた時計塔の階段をひとり駆け上がっていた。 両手いっぱいに抱えたキャンディ色の本、風に舞うリボン、そして瞳の奥に宿るひとつの願い—— 「まだ、夢は終わってない。きっと、本物の“ピンクの鯨”はいる。」 
マナがその名を初めて耳にしたのは、祖母が残した絵本の中だった。 絵本には、空と海のあわい狭間を泳ぐ、桃色の鯨の伝説が描かれていた。 人の言葉を話し、夢を食べて育ち、幸せを届けるという幻想の生き物。 
けれど、この都市では“夢”など笑われる時代だった。 誰も空の色の変化にも気づかず、潮風の香りにも無関心で、ただルールと効率に従っていた。
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