草花

 雑草という名の草はない、という言葉をどこかの誰かが残していたなと、ぼんやりと、それでいて力強く、脳内に浮かんだ。雑草という草がないのならば、今私が刈っているこの草花の名前は何なのだろうか。  桜も散り、日差しが強く、しかし夏と呼ぶには早すぎる季節だった。祝日の続く連休を活かして、久しぶりに帰省した。都会のビル群に慣れた人間にとっては、田舎の景色は新鮮なものである。斯くいう私も、この土地で生まれこの土地で育ったはずなのだが、どうにも感動を覚えずにはいられなかった。  私の実家はそれなりに広く、小さな公園ぐらいの庭があった。その庭にはリビングから連なるウッドデッキがあり、そこでよくバーベキューなどをしたものである。  実家は坂の上にあり、ウッドデッキから一望できる景色はなかなかのものであった。急坂の多い土地柄、海に面しているにもかかわらず、山ばかりであった。ウッドデッキからの景色も左には煌めく海が、右には聳え立つ山が、という具合だった。 「ちょっとあんた、ぐうたらしてないで、少しは運動したらどうなんだい」  リビングで横になり、動画を見るか、友人に返信をするか、ご飯を食べるか、という怠惰な生活を送っている私に、見かねた母がそう言った。 「勘弁してくれよ。ようやく仕事から解放されてゆっくりできるんだから」  一応上体だけ起こして、話を聞く素振りをした。 「そんなこと言ったら私は一年三百六十五日休みなしだよ。いいから働く働く。お父さんと二人で庭の草刈りをしておくれ」  今まで何も言われなかったのに、急に怠惰を指摘した訳は、草刈りの依頼であった。我が家の庭は前述した通り、広い。草刈りといってもそう簡単ではない。人の背丈ほどもある草刈機を担いで一時間や二時間かけて行うのである。
K
色々書いています。