第三話 生前
今日も今日とて、いつもの交差点に差し掛かる。
今日は家をいつもより早く出てみた。というのも、いつもは遅刻ギリギリで時間がない中なので、霊の彼女とゆっくり話す時間がなかったからだ。
「あれ? 今日は教官の爺さんはいないの?」
そこにはいつもの通り『教習中』の三角布を頭に被って佇むホロ子さんの姿だけがあった。
「き、今日は自主練してるのよ。なによ、アタシに向上心があったらいけないわけ? アンタこそ、いつも遅刻ギリギリな感じなのに今日はやけに早いじゃないの」
「いやぁ。おかげでこうして君に会えて嬉しいよ」
「は、はぁ⁉︎ アンタ、人間のくせに幽霊を口説こうっての?」
生きている人間なら頬を赤らめているところなのかもしれないが、幽霊には赤らめるだけの血の気がない。
軽く揶揄ったつもりが、こうも純情な反応をされてしまうとこちらも何だか気恥ずかしい。
「そ、そういえば、ホロ子さんはなんでこの交差点にいるの? やっぱり生前に関係が?」
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/9/30 17:17
吉口一人