第三話 生前

今日も今日とて、いつもの交差点に差し掛かる。 今日は家をいつもより早く出てみた。というのも、いつもは遅刻ギリギリで時間がない中なので、霊の彼女とゆっくり話す時間がなかったからだ。 「あれ? 今日は教官の爺さんはいないの?」 そこにはいつもの通り『教習中』の三角布を頭に被って佇むホロ子さんの姿だけがあった。 「き、今日は自主練してるのよ。なによ、アタシに向上心があったらいけないわけ? アンタこそ、いつも遅刻ギリギリな感じなのに今日はやけに早いじゃないの」 「いやぁ。おかげでこうして君に会えて嬉しいよ」 「は、はぁ⁉︎ アンタ、人間のくせに幽霊を口説こうっての?」 生きている人間なら頬を赤らめているところなのかもしれないが、幽霊には赤らめるだけの血の気がない。 軽く揶揄ったつもりが、こうも純情な反応をされてしまうとこちらも何だか気恥ずかしい。 「そ、そういえば、ホロ子さんはなんでこの交差点にいるの? やっぱり生前に関係が?」
吉口一人
吉口一人