雨、彼は踊る。

雨、彼は踊る。
 果ての知れない積層都市に棲む者にとって、雨と死は同義だ。  定期的に大気洗浄の為に降り注ぐ水滴は、人体に甚大な害をもたらす微粒子を取り込んで降り注ぎ、やがて地の底を流れる死の川の黒い水に変わる。  降り注ぐ死を防護服で防ぐ事は出来るが、そもそも必要の無いない事をする人間は、この社会にはいない。  …いや、いたかもしれないが、きっともう生きてはいないだろう。  その感傷的な心象は、雨が降るたび私を憂鬱にさせる。  人類史を保存する、崇高な仕事についたばかりに、迂闊にも古代の文学に触れてしまった。  奔放に生きた時代の人類の感情や情緒など、この社会で生きていく私は知るべきではなかったのだ。  まるで、心を侵す病だ。  以前は何も思わなかった雨の風景を、いつしか私は“降り注ぐ死”だと感じるようになった。  それは、明らかに無駄な思考だ。
四季人
四季人
挨拶がわりに「読んだ記念」していくおじさん。